EP03「歪む風景」暁「人間を逸脱した存在・・・・。」俺は自転車をこぎながら、輝咲が言った言葉を呟いていた。 あの後、まともに喉を通らない食べた気のしない朝食を取りながら吉良から必要事項の半分を聞いた。 まずは今後の話に必要な"機神(オーガノイド)"だ。 機神はリネクサスが開発した現在この世では解析及び製造が不可能とされるロボットらしい、アルファードもそれに入るそうだ。 なんとか全世界の総力を上げて、"疑似機神(イミティノイド)"という87%近い存在までは作られているらしく、ARSの主力はコレなんだと。 普通のロボットと機神の違いはそのパイロットに与える影響が大きな相違点となる。 EP03「歪む風景」 普通のロボットはパイロットとの直接的な因果関係は皆無に等しい。ただ名のとおり、ロボにとって人間は動かしてくれる存在との認識だろう。 だが機神・疑似機神はそうではない。機神がパイロットに与える影響というのは今までの物理化学を大きく揺るがしている。 機神に乗った時点で俺はアルファードに命を預けた事となった。つまりはアルファードが俺の命という訳だ。 アルファードが死なない限り、俺は肉体的に致死量を超えた傷を受けても死ぬことは無い。それだけでなく回復もするそうだ。 傷の度合いにもよるが、身を塵にされたとしても5日あれば体とともに意識も戻るらしい。 ここで肝心となるのがアルファードの死である。機神には"コア・ジェネレーター"という全体を司る機神の心臓がある。 そのコア・ジェネレーターというのは何処にあるかというと、それは俺自身である。つまりアルファードに乗っている状態では俺が心臓となるわけだ。 これが唯一の機神の搭乗者を殺す方法、自らの機神に乗って死を迎える、ドライヴァーになった時点で俺の死に場所はあの搭乗席となったのだ。 この生命の因果関係から操縦者を操縦する意味での"ドライブ"と生命という意味での"ライフ"をかけて"ドライヴァー"と呼ぶそうだ。 そして俺はその"アルファードのドライヴァー"という事になってしまったのだ。 アルファードに乗らない限りは、俺もアルファードも死ぬことは無い。これがたった一つの逃道だった。 暁「ドライヴァー・・・・か。」 気がつくと、俺はいつもの通学路途中の高台に来た。不思議と同じ風景のはずなのに、違う気がした。 いつもはここの風景が同じだと普通と思っていたのに、同じ風景でも今は歪んで見える気がする。 俺はドライヴァーになったと言われても、まだ実感はさほどない。ただアルファードという存在との距離が縮んだ程度に捉えている。 しかし、以外な所でその実感を沸かせられたようだ。 真「おぉぉぉぉいっ!!!」 後から真の声が聞こえる、昨日も聞いた声なのに、今日は違う感じに聞こえた。 暁「よ、よぉ・・・。」 真「暁ぁっ!やったな"異常現象"だぜ!!」 力なく返事をしたつもりの俺に、真はお構いなしにテンションを上げている。 暁「何だよ、いきなり。」 俺は自転車をこいで通学路を進んだ。横に止まった真もそれに続く。 真「お前見てないのか?夜中にやばいぐらい明るくなったらしいぜ!」 暁「へぇ~・・・それまた何で?」 理由は俺にあるのだが、とりあえず世間で対応していく上で必要な"第三者の意見"とやらを聞いておきたかった。 朝は吉良や榊の話でニュースを見ている暇がなかった。 真「それが学者も分かんないってよ、これは宇宙人の侵略かもな!」 嬉しそうに笑っている真に、事の真相を話そうとする気持ちなど更々無かった。真は巻き込ませたくない。 真「なんだよ~、普通じゃない現象が起きたのに反応イマイチだな。」 暁「自然現象なんてのにゃ、あんま興味ねーよ。ほんとに宇宙人ならいいけどな。」 不満そうな真の顔をよそに、俺は立ちこぎで真を抜いた。 -11/29 PM04:32 陽華高校 放課後 今日の話もほとんどが昨夜の異常現象の話で持ちきりだった。誰の話を聞いてもリネクサスの戦艦や機神などの目撃情報は出てこなかった。 事の起こりはあの光から、他人と話すときはそう意識しなければならない。 真「なぁ暁、今日暇か?」 帰宅準備万端の真が声をかけて来た。 暁「デートの付き添いならパス。」 真「そうじゃねぇって、ウチに来ないかってことだよ。」 真が放課後に自宅に俺を誘うのは珍しい事だった。特に用事もない俺はそれを承諾した。 家に吉良と榊が居ることを完全に忘れていたが、とりあえずは俺も休息が必要だった。真といれば少なくとも今の家にいるよりはましだろう。 -11/29 PM04:54 高田家- 高田家は学校から約20分ほどの場所にあり、中々の一軒家である。 恵奈「おかえり~。 あっ!暁お兄ちゃん、いらっしゃ~い!」 高田家に入るなり、真の妹中学3年生の"高田 恵奈(たかだ えな)"が嬉しそうに出迎えてくれた。 真「ただいま。」 暁「よっ、久しぶり。」 恵奈「ささ、上がって上がって~。お茶用意するねっ!」 そう言うと、恵奈はスタスタと奥へ入り準備をしだした。 真「ほんと恵奈に好かれてるな、お前。」 靴を脱いで、真の部屋がある2階へ続く階段の途中で、毎度のことのように言った。 暁「別に俺は何にもしてないって。」 真「お前がウチに来た時が一番アイツ生き生きしてるんだぜ?」 どこか羨ましそうに真が言う。 それもそうであろう、真は恵奈からは日頃"真"と呼び捨てで呼ばれているが、俺に関しては"暁お兄ちゃん"と呼ばれている。 そう呼ばれることに不快感こそ感じてはいないが、さすがに実の兄を差し置いて呼ばれるというのには後ろめたさがある。 真「暁、もしもの時は恵奈をよろしく頼む・・・!」 暁「まてまて、話が飛躍しすぎてるって。」 そう言っている間に、真の部屋に到着した。平凡な高校生の部屋で、結構がらんとしている。 暁「今日はどんなご用件で?」 真「暁、今から言うことは誰にも言わない。 だからお前が知っている範囲で教えてくれ。」 突然真の表情が陽気から真剣そのものに変わった。 真「昨日の夜、お前あの山ん中で何してたんだ。」 暁「っ!?」 思いがけない真の言葉に、俺は一瞬言葉が詰まった。 真「あの子は誰なんだ?あの後あいつらに連れ去られてどうなったんだ!?」 暁「・・・・・っ。」 その時、真の部屋のドアが開いた。 恵奈「お茶持ってきたよ~。 ・・・・あれ?なんか気まずい雰囲気・・・?」 真「おう、サンキュー。ちょっと席外してくれる? 大事な話だから。」 恵奈「う、うん、分かった・・・。」 床にお盆を置くと、恵奈は恐る恐るドアを閉めた。 真「俺の考えなんだけどよ、あいつらと異常現象は何か絡んでるんじゃないのか?」 俺は真に言っていいのかどうか迷った。真を巻き込むことは避けたい。だがここで逃げると返って真に心配をかけさせるだけだろう。 どうすればいいのだろうか、こんな時。 暁「悪い・・・・真。」 俺は重い口を開いた。全てを伝えるのはやめよう。ただそれなりの範囲でなら。 暁「あの山で何か光ったのが見えて、それを調べようとしたらあの山で人が倒れてるのを見つけた。 でも頭がぱにくってて、それ以降何にも覚えてないんだ。」 真「ほんとか・・・?」 暁「あぁ、気がついたら自分の部屋で寝てたんだ。だから夢なんだって思ってた。」 真も俺もうつむいて、沈黙が流れた。それを最初に破ったのは真だった。 真「俺もさ、あの山で何か光ったのが見えて急いで行ったんだ。途中お前に電話したけど繋がらなくてさ。 ふもとに着いたらお前のチャリがあってよ、恐る恐る行ってみたらお前が倒れてる女の子抱きかかえてたんだ。 声かけようとしたら、周りから変な男達が出てきてお前を撃ったんだ。」 真は恵奈が持ってきたお茶を半分一気飲みした。 真「そん後、倒れたお前とあの子を連れ去ってワープみたいな事をしやがったんだ。 上みたら雲の上に馬鹿でかい戦艦みたいなのが浮かんでて、それがゆっくり海の方に向っていったんだ。」 倒れた後の話は全く分からなかったので、俺も真剣に真の話を聞いた。 真「一回家に戻って望遠鏡持って海の方までバイクで行ったんだけど、自衛隊とかがいっぱい集まっててさ。 しゃーねーから海岸沿いの山の頂上まで行って望遠鏡でずっとあの戦艦追ってたんだよ。 それからあの戦艦から何か尻尾と角がある竜みたいなのが出てきて、灰色の人みたいなのと戦ってたんだ。」 その竜は"アルファード"の事で、灰色の人は"エインヘイト"であるに違いない。 真「今度は青いのが出てきて、竜のヤツを助けてたようだけど、その竜が輝きだしてから青いのは海中に逃げたんだ。 そしたらすんげー光が出てよ、竜のヤツ以外全部無くなったんだ。」 暁「その後、その竜はどうなったんだ?」 真「分からねぇ、その後怖くなって結局は俺も逃げてしまったんだ。」 真の声が震え始めた。あの光を特等席で見て俺が気絶したほどだ。遠くからでもその心理的恐怖というのがあるのだろう。 真「お前があんまり絡んでなくて、正直安心したぜ。 ただ・・・。」 暁「ただ・・・?」 気付けば俺の声も震えていた。初めて見る暗い真の表情。 真「いや、何でもない。さ、恵奈んとこに行こうぜ!」 突然表情を一転させ、真は部屋を出た。 暁「お、おう・・・。」 最後に真は何を言おうとしたのか。俺はそれが気になって仕方なかった。 -11/29 PM06:48 高田家- 恵奈「暁お兄ちゃん!またいつでも来てね!」 暁「おう、ありがと。」 真「そこまで送ってくよ。」 玄関を出ると、真も後から続いた。 恵奈「あ、私も行く~!」 真「だ~め、男同士の会話ってのがあるのだよ。」 真は軽く恵奈の頭をでこピンした。脹れる恵奈をよそに、真は俺の背中を押して外に出た。 外に出てからというもの、俺と真の間には沈黙が続いた。もう真っ暗な住宅地に響く俺と真の足音。 暁「なんだよ、男同士の会話って。」 埒が明かないと思った俺は、思い切って口を開いた。 真「さっきの"ただ"の続きだ、知りたくないか?」 暁「言いたいだけだろ。」 真「知りたいくせに。」 一瞬の沈黙を置いて、俺と真は笑った。今日初めて真と2人で笑った気がした。 初めての友達どうしが笑うような、軽い微笑。 真「ただ、何か困ったことあったらいつでも言ってくれよ。 またあの男たちが来るかもしれねーし。今度は逃げないからさ。」 暁「ほんとに言いたかったのそれか?」 俺は疑わしげな目で真を見た。暗くて真の上手く表情が掴めなかった。 真「お前すげぇな、俺の嘘まで見通すとは。」 暁「顔に油性マジックで嘘だって書いてあったからな。」 真「うぉぃ、水で落ちないじゃねぇか!」 いつもの会話の雰囲気に戻ってきたところで、真はとうとうその本音を呟いた。 真「無理して普通から抜け出そうとすんなよ。」 その言葉に、俺は胸の奥が熱くなった。 真「結構"普通"って羨ましいモンなんだぜ?」 この人間という枠から抜け出した存在、もう普通に戻る事などできない。今の俺は普通を演じているだけの存在だ。 ドライヴァーとなっても、人間から逸脱した存在だろうと、普通であろうとなかろうと、"鳳覇 暁"はここにいるんだ。 真と別れた後、そんな事を考えていた。ドライヴァーになったという事実に俺は恐怖を感じた。不安で頭がいっぱいになった。 普通に飽き飽きしているが、俺は普通の時が一番存在しやすかったのかもしれない。 大切なものは無くしてから気付くとよく言うが、俺は今それを痛感している。俺はそんな中で今後を生き抜くことができるのだろうか。 今まで俺を安定させていた普通からの巣立ち、俺はまだ翼もまともに動かせない雛鳥だ。真の言うとおり、俺は巣に戻るべきなのか。 暁「ドライヴァー・・・。」 目に見えないが、その事実は俺の中にある。もう巣へは戻れない。 その時、俺は空気の振動を感じた。五感が何かが来ることを鳥肌で知らせてくれた。 輝咲「鳳覇さん!」 暁「さ、榊さん?」 突然現れた彼女の姿に俺は奇声を上げてしまった。街灯に照らされた榊の顔はとても急いでいるようだった。 暁「どうしてここに?」 輝咲「数分前からリネクサスの戦艦が捕捉されました。 もうここに向っています、サンクチュアリの奪還が目的だと思います。」 さっきの感覚は敵の接近を表していたらしい。これもドライヴァーの特性なのだろうか。 暁「また・・・戦うのか?」 輝咲「・・・・・・。」 輝咲は目をそらして、悔しそうな顔をした。俺が弱いからか、それとも俺を戦わせたくないからか。 どっちにしろ、俺が戦うことになるのは事実のようだ。俺が"アルファードのドライヴァー"だから。 暁「覚悟は出来てる。どうせ俺が出なかったら"この街(ここ)"が襲われる。 それなら、戦わないわけにいかない。」 輝咲「鳳覇さん・・・・。」 暁「それに、アルファードは俺にしか動かせないんだろ?」 そういうと、輝咲は服の袖で顔を拭って話し始めた。 輝咲「アルファードは沿岸の港の海底にあります。そこまで行けば現地スタッフがいるはずです。」 暁「分かった。じゃあ、いってくる!」 俺は自転車に跨り、急いで沿岸方面へと突っ走った。 輝咲「鳳覇さん・・・・。」 私は恐れ無く戦場への道を進む彼の背中をただ見つめることしか出来なかった。私が彼の運命を変えてしまったのに、何もできない自分が悔しい。 せめて、彼に"気をつけて"の一言でも言いたかった。私が言える立場でないのは百も承知だ。 私は両手を合わせて目を瞑り、彼の無事を願った。神様なんていないのに、誰に祈るわけでもないのに。 -11/29 PM7:02 福岡県沿岸部 港町 俺が自転車をかっ飛ばしてついた頃には、多くの学者のような人が忙しく動いていた。俺を見つけるなり白衣を着た男の一人が寄ってくる。 ???「君が鳳覇君だね?」 暁「はぁ・・・・はぁ、は、はい。」 全力疾走で着たため、息切れが激しかった。ドライヴァーといえど身体能力が上がるわけではないようだ。 淳「私は機神・疑似機神のメカニックスタッフの"佐久間 淳(さくま じゅん)"、よろしく頼む。 来て早々で悪いけど、リネクサスがここに向ってるのは聞いてるね?」 俺は大きく頷いた。"はい"と言おうとしたが、今は呼吸の方が大事だった。 淳「よし、なら話は早い。サンクチュアリの発進準備は出来ているよ。 今回は神崎さんの置き土産があるから優位に戦えると思う。」 そういうと、佐久間は顎で奥のトレーラーに積んである馬鹿でかい銃を指した。機神用のライフルなのだろう。 近接戦闘用武器しかないアルファードには好都合だ。 淳「一応神崎君の"スティルネス"と寺本君の"ゲッシュ・フュアー"が向ってるけど、到着に1時間以上はかかるだろう。 援護無しの単機戦になるけど、頑張ってくれ。」 暁「一つ・・・聞いてもいいですか?」 次々と話を進めていく佐久間を一時停止させた。 淳「ん、なんだい?」 暁「自分で言うのもアレっすけど、佐久間さんは俺のこと心配しないんですね。」 榊と比べ、佐久間は俺が出るのはいつものように事を進めていったからだ。 淳「ははっ、だってもう君の目が"俺がやる!"って目になってるからさ。」 そういい残すと、佐久間は再び白衣の学者の群れへと消えていった。 暁「俺がやる・・・・って目か。」 鏡があったら少し自分の顔を見たかった。不思議といわれて嫌な気持ちではなかった。 決意を決め、俺は海中からクレーンで引き上げられているアルファードの下へと向った。 アルファードの周囲は完全にライトアップされていた。研究者が手招きをし、俺をコクピットまで案内した。 再び見る白銀の竜"アルファード"の姿を目に焼き付けた。もうアルファードは俺の一部なのだ。 コクピットハッチに手をかけて、俺はひょいとアルファードの搭乗席に座った。ハッチが閉まり、搭乗席がアルファード内部へとバックする。 そういえば吉良のおっさんが言っていたが、機神というの主な操縦方法は俺の思考で動くらしい。アルファードにとって俺は脳みそでもあるわけだ。 俺がしたいようにアルファードは動く、アルファードは俺の大きな体なのだ。 俺がトレーラーに積んであるライフルを手に取ろうとすると、やはりアルファードが動き、その灰色の刺々しい手でライフルのグリップを握った。 淳「あーあー、聞こえてる?」 突然コクピット内部前方のモニターに佐久間の顔が映った。 暁「は、はい。大丈夫です。」 淳「アルファードの通信系等が故障しててね、急遽我々が使ってる通信システムをそのまま組み込んだんだ。」 そういえば、コイツの名前かと思ったあの通信は相当ノイズが激しかった。あれを名前だと思った自分が急に恥ずかしくなった。 だが今更サンクチュアリと呼ぶのは何か引っかかる。吉良の言っていたように"それが何を指すのか分かればいい"が神のお言葉に思えた。 淳「そのリニアライフルは60発分の弾丸が入ってるんだ、後はサンクチュアリについている剣を銃口の下に装着することもできる。 まぁ、その時その時でいろいろ駆使してくれ。それじゃ、頼むよ!」 暁「分かりました。」 単純かつ分かりやすい説明だったが、少々物足りない気もした。まぁ彼の言ったとおり"その時その時"で役に立てば問題ない。 暁「よし、アルファード行くぜ!」 水しぶきを上げ、アルファードは水面をホバーリングするように動き出した。 -同刻 リネクサス巡洋戦艦内部- 通信士「サンクチュアリを発見。こちらに向ってきています。」 カイル「ようやく来たか・・・・エインヘイト隊出るぞ!」 カイルの怒りの叫びが艦内をこだまする。 -11/29 PM07:09 アルファードコクピット内部- ようやく敵艦が肉眼で確認できる距離まで来た。すると、俺を待っていたかの様に一斉に艦から8機のエインヘイトが出てきた。 その中の1機は昨夜戦ったあの角付きだ。名前は忘れたが、キザなヤツだったような気がする。 そしてもう一つ気付いたが、アルファードのモニターは暗闇にも関わらず敵を鮮明に捕捉していた。 カイル「来やがったな、クソ野朗!!今度こそぶっ殺してやる!!」 暁「相変わらず口が悪いな。コイツはお前等なんかに負けない!!」 先手必勝と言う言葉があるように、俺は早速右手に装備したリニアライフルを放った。暗闇を割く3発の弾丸は見事エインヘイトの隊列を乱すことが出来た。 カイル「ちっ、リニアライフルか。まぁいい、エインヘイト5番から8番は作戦に移れ! 残りはあのクソ野朗を止めるぞ!」 そういうと、角付きと3機はアルファードに向って総攻撃を仕掛けてきた。数で圧倒され回避で精一杯だ。 その横を残りの4機が抜け出し、街へと向った。 暁「しまった!?」 カイル「よそ見すんなよ!!」 振り返った瞬間、カイル駆るエインヘイトの二丁拳銃が直撃する。 暁「ぐぅっ!!」 カイル「お前等、電磁ロッドで足止めしとけ、ノヴァが放てないようにな!」 3機のエインヘイトが腰から長いロッドを取り出して、アルファードに突き刺した。その瞬間電撃がアルファードと俺に走った。 暁「あああああぁぁぁぁっ!!!」 カイル「さ、お前の家が燃える様でも特等席で見ときな!がーっはっは!!」 憎たらしい笑い方をするカイル。角付きエインヘイトもアルファードの横をとおり、陸地へと向っていった。止めようと手を伸ばそうとする。 しかし電磁ロッドとやらを喰らっている俺は痛みに叫びを上げるしかできなかった。 今度は助けはこない、もうここで終りなのだろうか。それだけではなく、陸地に向ったエインヘイトも気になる。俺は何も守れないのか。 自分さえも、俺らの街さえも、俺の友達さえも、この世界さえも。 暁「ぐぅぅぅっ・・・動け・・・動けよぉ・・・・!!」 俺は痛みを堪えて、必死にレバーを押したり引いたりを繰り返した。 その時、佐久間が再びモニターに現れた。 佐久間「鳳覇君!大変だ、エイ・・・・ト・・・・うわぁぁぁぁっ!!」 暁「佐久間さんっ!!」 一瞬移ったモニターの背景にあった炎とエインヘイト。俺は本当に何も守りきれていない。何がドライヴァーだ。ふざけるな。 こんな所でくたばってたまるか。俺は強くなりたいんだ。強くならなくちゃいけないんだ。 榊のあんな表情を見たくない、真のあんな表情を見たくない。なら俺はどうすればいい――。 ――そうだ、こいつらを消せばいいんだ―― 暁「答えろ!!アルファァァドォッ!!」 俺は心の底から願った。あいつ等を消して欲しいと。 暁「あいつらを・・・・消せぇぇぇっ!!」 俺の叫びにアルファードは行動で答えた。俺の操縦なしにリニアライフルを電磁ロッドにくっ付け、残っている弾丸に引火させた。 瞬間にライフルも、アルファードの右腕も、電磁ロッドも、エインヘイトも吹き飛んだ。 しかし、不思議なことにアルファードの右腕はすぐに元どおりになった。 リネクサス兵「何だっ!?」 暁「いくぜアルファード・・・・"サンクチュアリ・ノヴァ"・・・。」 アルファードの肩と膝の装甲が展開し、オレンジ色に輝きだす。オレンジの光が全てを包み、そのの全てを消し去った。 何も無くなった周囲を確認し、アルファードを港の方へと急がせた。 -PM07:13 福岡県沿岸 港区 カイル「はーっはっは!!今頃はアイツも悲鳴上げてくたばってる頃だなぁっ!」 炎上する港区に、灰色の巨人が炎の光で照らされていた。 カイル「これでここも・・・・・な!!」 足止めされているはずのアルファードの姿を見て驚いた声を上げるカイル。 暁「お前らを・・・・排除する!!」 消せば終る。俺には消すことのできる力がある。俺は太刀を構えようとした。だが、アルファードが言う事を聞かなかった。 暁「お、おいどうしたアルファード!?」 突然アルファードの肩と膝が展開する。もう見慣れてしまったオレンジの光。綺麗な光だとは思わない。 全てを消し去る光、全てを奪い去ってくれる光、アルファードのみが使える究極の業。 サンクチュアリ・ノヴァ――。 暁「やめろ、ここで放ったらだめだ!!」 アルファードは俺の声に答えず、さらに光を増していった。 暁「やめろっ、アルファード!!ここで使ったら港区が!!」 ――敵を消したいんだろう―― 心に響く、透き通る透明の声。 ――これはお前の"願い"だ―― 暁「やめろぉぉぉぉぉっ!!!」 目の前に広がるオレンジ色の光。数秒後、エインヘイトは全て消え去った。だが同時に港区までも消えてしまった。 その時は敵を排除することしか頭になかった。アルファードはその意思を理解して行動したんだ。コイツは悪くないのかもしれない。 悪いのは、俺の心だった。俺が強さを欲しようとした結果だった。 残酷な光を放つのを止めたアルファード。 暁「ぁ・・・・・・・っ。」 俺の目には涙が溢れた。目の前に広がる光景を直視できなかった。 誰かに思いっきり殴られたかった。狭い搭乗席が、突然虚無の空間の様に思えた。 暁「うああぁぁぁぁぁぁっ!!!!」 コクピット内部に、悲痛の叫びがこだました。 -同刻 福岡県 鳳覇家- 剛士郎「港区でノヴァを放ったか・・・。」 輝咲「鳳覇さん・・・・。」 私は現場を映すパソコンの画面を吉良司令と一緒に見て私は彼の名を呟いた。 剛士郎「鳳覇君の意思をサンクチュアリは適切に処理・判断が出来なかった、と言ったところか。」 パソコンから聞こえる鳳覇君の悲しみの叫びに、私は耳を塞いでしまった。彼に悲しみまで背負わせてしまった。 私は最低な人間だ。 私の目にも涙が溢れてきた。 剛士郎「さてと、今から私は鳳覇君に会ってくるが・・・榊君はどうする?」 輝咲「私は・・・。」 今すぐ会って、彼に謝罪したかった。だが、彼は私を許してくれるだろうか。いや許してもらおうなどとは思わない。 憎んでくれていい、嫌いになってくれていい。ただ、もう涙を流さないで欲しい、その涙は私が流すべき涙だから。 剛士郎「鳳覇君と顔を合わせ辛いか。」 輝咲「私があの時戦いを急かすようにしてしまったから・・・。」 胸が苦しい。張り裂けそうでたまらない。 剛士郎「まぁそう気を落さないでくれ。彼ならきっと大丈夫だ。」 そういって、笑顔を見せる吉良司令。椅子から立ち上がり吉良司令は玄関へ向った。 靴を履きドアを開けると、吉良司令は振り返って再び私に声をかけた。 剛士郎「何か鳳覇君に伝えることは・・・・・おっと。」 ドアの向こうには一人の少年が立っていた。さっき鳳覇君と一緒に居た人物だ。たしか"真"と呼んでいた。 真「あんたら、何者だよ。暁をどうしようってんだ。」 剛士郎「もしかして聞かれちゃったかな?」 真さんの目は鋭く、吉良司令に食って掛かりそうだった。 真「答えろよ!あの竜みたいなヤツに乗ってるのは暁なのかよ!」 真さんは吉良司令の襟を掴んで怒鳴った。きっと真さんは鳳覇君のことがよほど心配なのだろう。 さっきもあんなに楽しそうに喋っていた。 剛士郎「ん~、一つだけ教えてあげよう。もう君が知っている"鳳覇 暁"はこの世に居ないんだよ。」 真「それどういう――っ!?」 言い終わる前に吉良司令の拳が真さんの腹を突いていた。真さんはそのまま倒れこんだ。 剛士郎「事情が変わった、榊君も一緒に来てくれ。」 吉良司令は気絶した真さんを鳳覇君の家のソファに寝かせた。 EP03 END |